容疑者Xの献身 原作vs映画比較/東野圭吾【感想・レビュー】※ネタバレあり
東野圭吾 著 / 直木賞受賞・映画化作品
※この記事は『容疑者Xの献身』の映画版と原作小説、両方の結末に触れます。まだ読んでいない・観ていない方はご注意くださいね。できる限りまっさらな状態で見たい方は、先にネタバレなしの原作レビューからどうぞ。
『容疑者Xの献身』の映画版を観ました。原作を読んでいる僕が、いちばん語りたくなったのは、ラストシーンです。真相に触れるので、そこはご承知おきくださいね。
🎬 映画のラストと、小説のラスト
同じ物語のはずなのに映画と小説とで、ラストから受ける印象がそれぞれ違うのではないか?と思ったんですよね。観終わってから、そのことがずっと頭に残りました。
映画のラストで取り調べを終えた石神の前に靖子が現れ、完璧だった犯罪工作が崩れたことを石神は知ることになります。これまで感情を抑えていた石神はここで絶望し、初めて感情をさらけだして泣き崩れます。
そして靖子もまた、なぜそこまでしてくれたのか、と石神に謝りながら泣くんです。このふたりの、すれ違いの大きさ。その途方もない距離を感じて、観客はそれぞれの心情を思って泣くのではないでしょうか。
この映画のラストシーンで靖子は、はっきりした拒絶の言葉を口にしません。むしろ、自分たちだけ幸せになるなんてできない、と石神に涙を流して言うんです。そのせいかな、と思うのですが、罪を償った後ふたりが結ばれることもあるかもしれません。続きは皆様が自由に想像してくださいね、と二人の行く末を視聴者一人ひとりに委ねている、と僕は思いました。
僕がこう感じた理由は、小説と映画を比べたときに気づく本当にわずかな言葉の違いです。言葉の綾と言ってもいいと思うくらいの小さな違い。
でもこの僅かな差のおかげで『容疑者Xの献身』の映画版には、石神と靖子の二人は、罪を償ったあと同じ方向を見て共に歩いていく未来があるのかもしれない、という希望のある余韻が残っているように感じたんです。
石神が全てを捧げて守ろうとした靖子への想いが、いつか報われる日が来るのかもしれない。石神の見返りを一切求めない献身的な愛に、靖子が応えてくれる未来もあるのではないか?観客にそう期待を抱かせて、映画は幕を閉じます。
でも、小説のラストは少し違うと思うんですよね。
小説のラストシーンで、自分にできるのは石神とともに罪を償うことだけだ、と靖子は泣きながら口にする。他はできない。つまり結婚はできません、と暗に示しているように思いました。それはまさに靖子の強い意志であり、はっきりとした拒絶の言葉だ、と僕は思ったんですよね。
この靖子の謝罪の言葉から石神の愛は、悲しいけれど靖子に届かず終わってしまったんだなぁ、と僕は受け取りました。ふたりが結ばれる未来を、靖子自身が静かに閉じているんです。このわずかな言葉の違いが、とても大きいと思うんですよね。
映画はふたりの恋の行方を観客に委ねて余韻を残す。
小説は石神の恋をしっかり終わらせて罪を償いましょう、と静かに諭しているように僕には読めました。
同じ物語なのにラストの僅かな言葉の違いで、受ける印象がこんなにも変わってしまうものなのか、と僕自身も驚きました。とはいえ、これは僕個人の独り言ともいえる解釈ですのであしからず。
💭 こんな報われない残酷な結末でいいのか?
いちばん悪いのは靖子と娘から平穏を奪っていった、元夫です。それを思えば、二人が結ばれる物語があってもいい。そう言われれば、僕も納得して頷くしかありません。だって、靖子と娘に暴力をふるい、金を奪っていくだけの自分勝手な男のせいで、母娘の人生は狂わされたんですから。
でも、それでも、このラストでいいと僕は思うんです。
人を殺した人間が何も知らないまま、平然と幸せを手に入れて生きていく。もしそういう物語だったら、これほど多くの人の心を打つことはなかったと思うんです。
石神は実らぬ恋を全力で貫き通しました。自らを追い込み退路を絶った。靖子とその娘がいなければ、石神はもうずっと昔に死を選んでいたに違いないのだから。石神の計り知れない覚悟をそこに見た。
だからこそ石神の絶望に読者・視聴者は共感したんだ、と思うんです。見返りを求めない献身。ラストまで観終えるとそのタイトルの意味が、心の奥深くまで染み込んでいくようです。
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📖 原作と、その先へ
映画から入った方も、ぜひ原作を読んでみてほしいです。同じラストでも活字で読むと、また違う重さで胸に迫って来ると思います。
そして、この物語には後日談があります。先日発売された東野圭吾先生の遺作。『永遠の記憶』という一冊です。極力、真相に触れないようにご紹介しています。こちらも読んでいただけたら嬉しいです。
📝 まとめ
というわけで今日は『容疑者Xの献身』の原作vs映画比較をお届けしました。
ではでは積読を消化した頃に、またゆるりとお会いできたら幸いです!
