けんぐゎい/朝倉かすみ【感想・レビュー】ネタバレなし
朝倉かすみ 著 / 2026年6月発売・光文社
人生はくじ引きの連続だとしたら、あなたは自分のくじを引き受けられますか?
今日ご紹介するのは、第175回直木賞を受賞した、朝倉かすみ先生の『けんぐゎい』です。受賞発表の日、書店で最後の一冊を手に入れました。読み終えた今、この本と出会えた僕のくじ運に感謝しています。
📖『けんぐゎい』の基本情報・あらすじ
『けんぐゎい』朝倉かすみ先生、光文社、2026年6月発売。第175回直木賞受賞作です。
【あらすじ】
舞台は江戸時代。ひどい疱瘡(ほうそう)の跡が残る女性が主人公です。外見のこと、身分のこと、そして理不尽な境遇に苦しんで生きています。それでも自分の生きる道を探していく、という物語です。
先にひとつだけお伝えしておくと、この作品には身体にまつわる生々しい描写があります。読む人を選ぶ、と言われるのも分かります。ですがその先に待っているものがあるからこそ、僕はこの本をご紹介したいと思いました。
もちろんネタバレなしでご紹介しますので、最後まで見ていってくださいね!
🎴 くじ引きの話が、こんなにも怖い
この作品には人生はくじ引きの連続だ、という考え方が出てきます。
生まれつきの顔かたちも、身分も、誰と出会うかも、全部くじ引きで自分では選べない。その考え方自体は、どこか救いのある話にも聞こえますよね。
ところが読んでいる途中、ある人物同士の会話で、このくじ引きの話が別の顔を見せる瞬間がありました。穏やかな言葉のはずなのに、選ばれたのは自分だ、と釘を刺しているように聞こえてしまう。そう受け取った瞬間、背筋が冷えました。
同じ言葉だとしても、誰が誰に言ったのか? そこで意味がまるで変わってしまう。この作品の人間関係の緊張感は、そういう細部に宿っています。
👹 この男、ラスボスとしか言いようがない
登場人物の中に、忘れられない男が一人います。
弱みのある女性を思うがままに操りたい。自分に奉仕させたうえで、自らの欲望をぶつけたい。でも家の外の人間にはそういう考えを少しも見せない。穏やかでイケメン、柔らかな物腰という評価を周囲の人から受けていたこの男。ですが物語を読んでいくにつれて、この男のことを僕はラスボスとしか言いようがないな、と思っていました。
ただ、この男が単純な悪役で終わらないのがこの作品のすごいところです。ある場面で彼が自分自身について語る言葉を読んだとき、碌でもない人間だという自覚はあるのか、と驚かされました。悪人にも悪人なりの自己認識がある。その造形の深さに、直木賞という結果も納得でした。
🌱 自分を大切にすることの、途方もない難しさ
この作品でいちばん心に残ったのは、自分を大切にするとはどういうことか、という問いです。
自分で自分を大事にするのは難しい。でも、他人が自分を大切にしてくれる。そうやって大切にされた自分自身を大切にすると自ら誓う。作中にそういう、悟りにも近い境地が語られるシーンがあります。
正直に言うと、そのシーンの状況そのものは穏やかとはほど遠いものでした。崇高な言葉と、そうではない現実が同じシーンに同居している。
この悟りに近い言葉を話している登場人物たちの状況を想像して、そのチグハグさに思わず、なんでやねん! と本に向かって僕はツッコミを入れていました。でもその後に気づきました。人生の真実は、綺麗な場面でだけ語られる訳ではないもんなぁ……と。
産む・産まないを自分で決められること。それがどれほど重く、そして現代でも実現しきれていない理想なのか。江戸時代の物語を読みながら、今の話を突きつけられているような気がしました。
🙋『けんぐゎい』はこんな人におすすめ
📝『けんぐゎい』の感想まとめ
というわけで今日は朝倉かすみ先生の『けんぐゎい』をご紹介しました。
読む人を選ぶ作品かもしれません。でも、選ばれてしまった人には、忘れられない一冊になるのではないでしょうか?
ではでは積読を消化した頃に、またゆるりとお会いできたら幸いです!

